廃人

街を歩き続けていたようだった
ようやく部屋にたどりついたのは
いつの頃だったやら

憔悴した心に悪しき蛇の宿る朝
乾いた目が裁判を始める
判決はギルティ

ベッドの上に
魂の無い生首が転がる
窓から雨がしみこんで部屋を藍色に染め込んでゆく
本もラジオもハンガーの背広も雨水に溶けてゆく
シーツの汗くさい臭い

人のぼやき声が聞こえる
烏の断末魔
女の悲鳴

そういえば
小学校の校庭で少年が一人立っていた
乾いた砂が風に舞い
寂しそうな少年の頬を打っていた
日が暮れるまでうつむいていた

街の灯は夜に赤い
片足を引きずった女たちが
無邪気そうに通りを歩いてゆく
ひとときの明るさに目眩がして
ごみ箱が置いてあった電信柱に一晩中もたれ掛かっていたんだ
恋人のように暖かかったごみ箱

警官が話しかけてくる
俺がここにいてはいけないのだと馴れた目がいっている
うちに帰りなさい、とか風邪ひいたらどうするのだ、とか
「どうして僕を特定しようとするのですか
 出来ればお水を頂きたいのです、あなたから
 僕が溶けて行くのです」

一晩中踊っていた人形と人殺しのナイフ
壊れた時計の逆回り
硬い砂漠の上を歩く一匹の駱駝
蠍が歩いていた
振り向くのは獲物を捜す獣達
道で轢殺された猫の口から吐き出された臓

今朝の部屋にはやけに面白い玩具が転がっているじゃないか
でも
手足が腐っているから遊べない
その横で寒そうな俺がみている
虚ろな目で俺の目の裏まで見ようとしている

少年が座っていた
まっすぐに視線をのばしていたから
お前は叩き殺されてしまうんだ

馬鹿な女がやってくる
俺は眠ってしまおう
何が別にどうなったところで
その女が利口になるわけでなし
決まりきった化粧で満足さえしている
そうやっているからお前に腹が立つのだ

驚いた顔の女
車に乗せられた俺
外はやけにうるさいじゃないか
お願いだから起こすのだけは止めて欲しい

手足を抱かれ
体中に針が突き刺さる
片目に赤いライトが照らされる
医者が首を横に振る

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