天使よ

底無し沼の深みより出づる泡の一つ一つが
瞬く間に浮かび消える
人は気付くだろうか
天使の生まれの秘密を

長い時の移り変わりに
そよぐひとときの風が
8月に咲いた高原の黄色い
小さなはかなき花を揺らす

人は天使を見る
その優しき風は
天使の訪れるしるしと

天使は美しくまた無邪気にそこにいるという
何としても愛せずにはおれぬ
とばかりに

おお
私は涙してそこに崩れる
そんなに心地良い風に乗って
おまえ達の訪れることが
この罪の審判を下すのだ
私が歩いた道の不幸を暴くのだ

真夏日の草の上だった
悲劇が
それは余りにも身近な出来事の様に思えたのだ
小さな羽虫が最後の時を迎え
苦し気に細い体を震わせていた

男はそれに耐え切れなかった
彼女はもう顔も腐り
口からはうじ虫の如きものが出入りしている

抱けなかった
見続ける事も出来なかった
嫌悪が全身を襲い・・・・・・為に
その夜に死んだ

楽園の所々には美しき愛しき天使がいた
花から花を飛び
無邪気に笑い声をあげていた

トンボが交尾をしていた
蛙が虫を喰っていた
蝉が断末魔をあげていた
羽虫の一つが小川の淵で溺れていた
天使は悲しみを知らない

楽園の魂も一つ、また一つと蒼き淵に消えて行く
天使は無邪気な笑い声をあげながら
その上を飛ぶ
それが彼女達に許された唯一の幸せなのだろう

それから百億年もの時が過ぎ
醜い死に切れぬ魂を持つ老人が残る
臭い息を吐き
時折空に向かって怒るという
偏屈者だ

身の回りに天使を多く引き連れ
そんな事には頓着一つも見せず
時折うっとうしい顔をするだけの老人だ
彼だけが生き残る

地上の天使は
魂の不幸を食べて生きるという
そして年老いた者の不幸こそ
この上ないご馳走なのだ
その味は滋味に満ちているという

それ故にか
私はお前を愛さずにはいられない
お前が
ちっぽけな私の羞恥など気にもせず
そんなにも幸せそうに私の不幸を
暴き出してみせて
食べ尽くしてくれるのなら

あの時に
魂を捨てた事も

お前が為に
愛を知ったかと思うのだ

天使よ!

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