うどんと小麦の知識

 うどんの主原料は小麦粉である。うどんの範疇に入る麺として、おおまかに「そうめん」と「うどん」が分類される。そうめんは麺体を引き延ばすことによって作られ、うどんは麺生地を包丁で切断することによって作られる。またそうめんは細ければ細いほど上等とされる傾向にある。

 小麦粉は主に小麦の胚乳部を粉末にすることによって得られる。一口に小麦といっても様々な種類があり、性質も異なる。そこで、小麦について着目する。

小麦の植物学的分類

 西南アジア原産で、イネ科コムギ属に分類される。300mm以上の年間降雨量があれば作付け可能な為、広く栽培されている。しかし生長の適切な時期に適量の降雨があること、収穫期に乾燥していることが、良質の小麦を収穫するに欠かせない。

小麦の形態

 小麦は播種により発芽し、生長するに従って、茎を分けて増やし、十数本の茎を持つ株を形成する。結実はそのうち5〜10本に穂をつけ、開花する。穂は多段状の節を形成し、種子の育床となる部分と、開花・結実を行う苞穎(ほうえい)を形成する部分からなる。それぞれの節は穂軸節といい、一本の穂に約20の穂軸節を持つ。穂軸節の先端は苞穎を育むためにふくらみを持っており、この部分を小穂(しょうすい)という。

 小麦は人間の栽培によって原種の交雑が進み、染色体数を倍加させるとともに、結実数を増加させて来た。この様な過程により、染色体数の異なる小麦が存在している。原種に近いものは、一つの小穂に一粒を稔実させる。現在一般的に栽培されている小麦は、一つの小穂に三粒以上を稔実させる。

 一つの小穂に一粒を稔実させる小麦を「一粒系」といい、染色体数が14本ある。この種類のものは食用に用いられない。一つの小穂に二粒を稔実させる小麦を「二粒系」といい、染色体数が28本ある。この種類のものの中に、デュラーム・セモリナがあり、独特な風味を持ち、マカロニやスパゲティに用いられている。一つの小穂に三粒以上を稔実させる小麦を「普通系」といい、染色体数が42本ある。この小麦が食用として最も広く栽培されている。

小麦の実は楕円形を有し、外側を幾重もの果皮に保護されている。外皮の色は黄色から褐色まである。その内側に、製粉に重要な部位である胚乳部と発芽を担う胚芽部を持つ実が包まれている。大変大まかにいって、果皮部が種子全体の重量の約13%を占め、タンパク質、脂質、灰分を豊富に含んでいる。胚乳部は85%を占め、糖質、タンパク質に富んでいる。胚芽部は2%を占め、特にタンパク質、ビタミンに富んでいる。

小麦の品質的分類

 小麦の取引においては、様々な基準によって品質が分類されている。その中で主に、植物学的分類、生産や品質上の特徴による分類、生産地域による分類などが組み合わせて用いられている。                 

 1.植物学的分類 <赤小麦と白小麦>

  外皮の色が褐色系のものを赤小麦という。レッドと称される。
  また琥珀色をアンバー、濃い褐色をダークという。北アメリカのほとんどの
   小麦と日本の小麦がこれに属する。
  外皮の色が黄色系のものを白小麦という。ホワイトと称される。
   オーストラリアの小麦がこれに属する。

 2.生産による分類 <冬小麦と春小麦>

  秋に種子を播いて翌年の夏頃収穫するものを冬小麦という。
  ウインターと称される。
   日本を含み各国で一般的に用いられている。
  春に播いて秋に収穫するものを春小麦という。スプリングと称される。
   カナダやヨーロッパ北部などの寒冷地で用いられている。

 3.品質上の特徴による分類 <硝子質小麦と粉状質小麦>

  種子の切断面が固く半透明のものを硝子(しょうし)質小麦という。
   タンパク質が多く、パンや中華麺に向いている。
  種子の切断面が白っぽくもろく、不透明のものを粉状質小麦という。
   タンパク質が少なく、菓子などに向いている。

 4.品質上の特徴による分類2 <硬質小麦と軟質小麦>

  種子が硝子質で粒が固いものを硬質小麦という。ハードと称される。
  種子が粉状質で粒が軟らかいものを軟質小麦という。ソフトと称される。

 5.生産地域による分類 <原産国名>

  小麦の輸出国はアメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス、
  アルゼンチンである。
  これらの輸出国名を冠して産地別に分類される。

産地別の主な銘柄

 日本は小麦の消費の8割方を輸入に頼っている。その輸入元となる国は、アメリカ、カナダ、オーストラリアの3カ国となっている。これらの国別の主な銘柄は以下の通りである。

 1.アメリカ

  ハード・レッド・ウインター(硬質:中部大平原地区のほぼ全域で生産される)
   パン用、中華麺用
  ダーク・ノーザン・スプリング(硬質:大平原北部)
   パン用
  ウエスタン・ホワイト(軟質:ワシントン州、オレゴン州)
   菓子用

 2.カナダ

  ウエスタン・レッド・スプリング
  (硬質:南西部、アルバータ、サスカチュワン、マニドバ州で生産される)
   パン用として世界的に高い評価を得ている。

 3.オーストラリア
  (南半分の海岸沿いの西部から東部で生産される。白色冬小麦)

  オーストラリア・スタンダード・ホワイト
  (中間質:ウエスタン・オーストラリア州で生産される)
   麺用
  プライム・ハード(硬質:クインズランド、ニュー・サウス・ウエールズ州)

日本の小麦

 日本の小麦は伝統的に軟質よりの中間質で、うどんに適している。産地は関東以西が主だった所であったが、近年では北海道で日本の全生産量の半分が生産されている。しかし北海道の小麦はハード系でパンなどに用いられる。残りの半分が主に九州と北関東で生産される。いわゆる地粉というもので、品種は「農林61号」である。これがうどんに用いられる。北海道でも、チクホコムギという麺用の小麦が開発され期待されている。地方品種としては、瀬戸内沿岸のシラサギコムギ、東北地方のキタカミコムギなどが知られている。

小麦粉の品質

 小麦粉の品質は、小麦自体の性質、製粉過程、保存状態によって決まる。製粉の過程は小麦粉の品質を決める3大要因の1つであり、等級と密接な関わりがある。

製粉過程

 製粉は、臼と杵によって潰砕する方法から、石臼によって挽砕する方法を経て、現在は2本のロールの間を通して粉砕する方法が主流になっている。ロール製粉はロール間を何回もに分けて通すことによって製粉する方法で、ロール間を通るに従い、実の内側より粉が採られていく。これを篩にかけて、均質な粉を作る。篩いに残った荒い粉は次のロールに回される。このロール製粉の特徴によって、粉砕を重ねることにより、徐々に小麦粉の内層粉から、外層粉までが採取されていく。内層粉は糖質に富み上質のタンパク質を含んでいる。外層粉は種皮も混じるようになり、小麦独特の香りを含み、タンパク質も多く含むようになる。外層粉になるに従い灰分なども多くなり、雑味が出てくる。この製粉による質の違いによって、一等粉から二等粉、三等粉、そして末粉まで等級分けされる。

小麦粉の種類と等級

 小麦粉の種類は、生産される小麦の性質によって大まかに分類される。硬質の小麦を用い、タンパク質を多く含む小麦粉は、グルテンによる粘弾性に富み、パンなどに向いている。この様な品質を持つ小麦粉は強力粉に分類される。その対となるのが薄力粉で、軟質の小麦を用い、タンパク質の含有量が低い。このような粉は菓子に向いている。その中間に位置するのが中力粉で、うどんなどの麺に向いている。中力粉と強力粉との間に準強力粉が位置する。準強力粉はパンや中華麺に用いられる。

 等級別には灰分の含有量などが着目されるが、一般的に灰分の含有量が少ないもの程等級が高い。等級の高いものは、同種の粉と比較すると糖質の含有量が高く、タンパク質の含有量が低い。しかし、食味に影響する良質のタンパク質を多く含む。

 下表は小麦粉の種類・等級の品質と主な用途の関係を表したものである。

<表:小麦粉の種類・等級と主な用途>    ()内数字はタンパク質含有率%

等級

1等粉

2等粉

3等粉

末粉

灰分量(%)

0.3 - 0.4

0.5 前後

1.0 前後

2 - 3

強力粉

パン
(11.5 - 12.5)
パン
(12.0 - 3.0)
グルテン及び
  でんぷん
合板
飼料

準強力粉

パン
(11.0 - 12.0)
中華麺
(10.5 - 11.5)
パン
(11.5 - 12.5)
グルテン及び
  でんぷん

中力粉

茹で麺、乾麺
(8.0 - 9.0)
菓子
(7.5 - 8.5)
麺、菓子、その他
(9.5 - 10.5)
菓子
(9.0 - 10.0)

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薄力粉

菓子
(6.5 - 8.0)
菓子、麺、その他
(8.0 - 9.0)

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用途別にまとめると

・パン用 (強力粉・準強力粉)
・パスタ用(強力粉・準強力粉)
・中華麺用(準強力粉・中力粉)
・茹麺・乾麺用(中力粉・薄力粉)
・菓子用 (薄力粉・中力粉)

原料小麦と小麦粉の種類別にまとめると

<表:原料小麦と小麦粉の種類>

原料小麦

小麦粉の種類

カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング 強力粉・準強力粉
アメリカ・ダーク・ノーザン・スプリング 強力粉・準強力粉
アメリカ・ハード・レッド・ウインター 準強力粉
オーストラリア・スタンダード・ホワイト 中力粉
日本・農林61号 中力粉・薄力粉
アメリカ・ウエスタン・ホワイト 薄力粉

うどんの風味と小麦粉の成分の関わり

 うどんの風味は、小麦粉自身の味と香り、コシ、弾力などによって評価される。小麦粉自身の味と香りは、製麺時に加えられる塩によって引き立てられる。日本の地粉と称される農林61号などは、小麦粉の味や香りに富んでいる。コシは小麦粉に含まれるグルテンによってもたらされ、弾力は主に小麦粉に含まれる糖質の多寡に影響される。上質なうどんはこのバランスが良く、コシがあって、みずみずしく弾力に富み、咀嚼するとほのかに風味が漂う。

グルテン

 うどんにコシを与えるタンパク質であり、麺打ち時に粘性を出し、麺体を保持する重要な役割を担っているタンパク質である。グルテンにはグルテニンとグリアジンというタンパク質が含まれる。グルテニンはチューインガムのような固さを持つタンパク質で、麺のコシを形成する。グリアジンはやわらかく、べたつく性質で、結合材の役割を果たしている。うどんを伸ばしていっても切れにくく、麺体を保持できるのはこの性質によっている。グルテンは小麦に特有なタンパク質であり、他の穀物からは生成されない。そば粉や米粉が麺体になりにくいのは、小麦粉のようにグルテンを含まないからである。余談であるが、そば粉には粘性のある別の水溶性タンパク質が多く含まれている。よって適度な水分によってそばは粘性を出し、麺体を保持出来る。

糖質(でんぷん)

 小麦粉の約三分の二を占める物質である炭水化物、すなわち糖質のほとんどはでんぷんであり、うどんの弾力を形成する。でんぷんは加熱することにより水を含んで膨潤し、全体が半透明で粘りけのある糊になる。うどんの独自の食感は糊化したでんぷんの性質に負うところが大きい。また、タンパク質にでんぷんが結びつくことにより、麺体が維持される。

うどんに適した小麦粉を求めて

 おいしいうどん作りにとって、小麦粉の品質は命である。古来よりうどんの名産地、例えば讃岐、北関東などは、タンパク質を比較的多く含む良質の小麦が採れた。余談であるが、白河に近い、三春でも良質の小麦が栽培され、そうめんの名産地としてその名を馳せた。江戸時代には特に北関東の良質の小麦粉が銘柄の代名詞となり、良質のうどん粉を「関東」と称した事などが記録されている。日本の小麦粉はあまりタンパク質を含まない軟質よりの中質粉に位置されるが、その中でもやはりタンパク質を多く含んだ粉で打たれた、コシのあるうどんが好まれて来たことが伺われる。

 一般にうどんにとってタンパク質の量が8〜10%の範囲で、グルテンの性質があまり硬すぎず、適度の軟らかさと伸展性を持っている事。またでんぷんが適度の粘性のある糊になる性質を持っている事が重要とされる。これを小麦粉の種類・等級に当てはめると、中力粉の1〜2等粉が該当する。またこれを基準とし、好みによって例えば、特に弾力のあるうどんにしたい場合は、糖質の量を高めるような配合をするなどの調整をするとよい。しかし、糖質の多いうどんは弾力に優れるが、煮込みうどんの様に長時間加熱されるとコシを失う時間も短い。うどんの弾力を高めるために、全量の2〜3%程でんぷんを加えるという方法もあることを付記しておく。

うどんと食塩の関係

 食塩は小麦粉にとって以下の働きがあり、うどんの品質に影響を与える。

 ・グルテンを引き締め、粘弾性を増加させる
 ・発酵抑制(ダレ防止)と防腐作用
 ・乾燥防止
 ・風味を良くする

 このように適度の食塩は、おいしいうどんに欠かせない要因となっている。食塩はあらかじめ水に溶かして用いる。また茹でる際に、食塩によって水分が麺全体に均質に保持され、ふっくらとした弾力のあるうどんとなる作用もある。食塩を含まないうどんは、茹で時間が長くなる上、芯が残りやすい傾向にある。

 食塩は水100ccに対して塩10g(10ボーメ)の割合で溶解させたものから、水100ccに対して塩15g(15ボーメ)の割合で溶解させたものの間で用いる。製麺に際して夏場はダレやすく、小麦粉に対しての食塩水の加水率も少なくなる。よって、食塩水の濃度を高くしなければならず、最高で15ボーメ程度の食塩水を用いる。冬場は加水率も上がり、よって食塩水の濃度は10ボーメ程度を用いる。この間で、加水率をにらみ、食塩水の濃度を使い分ける。加水率の目安は、夏場が42〜44%程度、冬場が48〜50%程度である。但しこれは手打ちの場合の加水率であり、機械打ちの場合はこれより加水率が下がる。

白河のうどんの展望

 当会のメンバーでもある「櫓」は、白河にあって目立って良質のうどんを提供し、また満足度の高いうどんメニューを誇るうどん専門店として特筆される。しかし白河の地では残念ながら蕎麦、ラーメンの知名度が高く、うどんの知名度はあまりない。また評価の高いうどん専門店も少ないのが現状である。蕎麦屋でおいしいうどんを提供しているお店の方が多い。であるが、三春のそうめんなど、近場にうどんの縁の地もあり、うどんがここ白河で見直されても良い地盤は十分にあるといえよう。その為には今後、白河のうどん振興に向けて生産とサービスの両側面からのアプローチが欠かせないと考える。

 生産の側面からいえば、良質な白河産小麦粉が生産されなければならない。白河の地粉、ともいうべきものを商品化する努力が必要となる。また白河産小麦を地元の製粉業者が、特にうどん用に製粉する事が求められる。これら一貫した流通過程を通して、白河産と十分に名乗り得る品質を持つうどん粉に対しては、基準を設けて原産地呼称制度を適用すべきである。このように商品を差別化し、白河が麺文化創造に積極的に関与しているという姿勢を示すことが、ひいては白河を日本の麺所に押し上げることにつながろう。

 サービスの側面からいえば、このような白河の地粉をうどん店が積極的に用いることはもちろんであるが、それぞれのお店の味の向上も重要である。それにはある程度のうどん店の確保とその競争も重要な要因となる。また、白河で提供するうどんの品質を最低限の所で保証する制度も必要である。例えば業界の組合などで自主的に品質を制定し、最低限守るべき、小麦粉の品質、うどん製法などを遵守することも必要であろう。白河蕎麦では割子蕎麦が地域商品として定着しているが、うどんについてもその様なアイテムが欲しいところである。また研究熱心なうどん店が、うどんメニューの開発や顧客開発の目的で、顧客対象の試食歓談会などを設けるのも推奨される。


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