蕎麦のマメ知識

 蕎麦を打つ前に、蕎麦について的確な知識を得ていることは、上達の大変な手助けとなる。ここに説明したことは概要であり、蕎麦打ちを経験するに従って、さらに知識を深めていくことが望ましい。

 穀物の多くがイネ科やマメ科に属しているが、ソバはタデ科のソバ属に分類される。穀類の中では異色の存在であり、独特の香りや味を有する。日本を始め、世界で広く栽培されているのは普通種と呼ばれる。一般的なソバは普通種に属する。その他にネパールを中心として栽培されるダッタン種などがある。

 玄蕎麦は果皮(殻)、種皮(甘皮)、胚乳部、子葉部(胚芽)からなっている。その成分はでんぷんが主体であるが、タンパク質が15%を占め、穀類中でもっとも高い含有率である。タンパク質は外側の甘皮部と種子内をS字状に縦断するの子葉部に多く、でんぷんは胚乳部に多い。また、子葉部と甘皮部は色素に富み、この部分がそば粉に多く配合されると色が濃くなる。ソバの香りと風味もこの部分に多くある。

 そば粉のタンパク質は水に溶けやすいという性質を持っている。そば粉に水を加えて練ると、水に触れた部分が溶け、非常に高い粘性を出す。小麦粉はグルテンという、組織が海綿状になって水分を吸収し保持する物質を形成するが、そば粉はこれを形成しない。その為、そば粉は水分を保留する能力に乏しく、麺として保持することが難しい。蕎麦が麺体として保持できるのは水溶性の高い粘性を出すアルブミン(水溶性タンパク質の総称、不溶性タンパク質の総称をグロブリンという)に因るため、ここにソバを打つ際、満遍なく水を行き渡らせる事の重要性、また乾燥を防ぎ、迅速に打つという事の重要性がある。

 このようにそば粉のタンパク質は水溶性が高いため、茹で湯に多くのタンパク質が溶出し、そば湯に栄養がある所以となる。

 現在のそば粉の種類(一番・二番・三番粉、並粉)は、主にソバの製粉過程によって分別されている。現在の製粉の主流はロール製粉であり、二本のロールをかみ合わせ、その間にソバの実を通すことによって、ソバの実を粉砕する方法によっている。

 大ざっぱに蕎麦の製粉過程を説明する。先ずは皮むき機によって殻が取り除かれる。殻を取った種子は抜きと呼ばれる。これを一番目のロールに通すと、内層粉が取れる。これを篩にかけて混在物等を除いたものを一般に一番粉と呼ぶ。これは白色ででんぷんが主体のサラサラした粉である。でんぷんの持つ歯ごたえに富むが、麺になりにくく、香りや風味に乏しい。次のロールにかけられると、中層粉が取れる。これが二番粉である。香りや風味に優れ、栄養価も高く、色は緑がかった淡黄色を帯びている。香りを大切にし、名店と呼ばれる蕎麦屋には二番粉で打つ店が多い。さらにロールで粉砕されると、表層粉が取れる。これが三番粉と呼ばれる。この部分は香りが強く、また色も強い。栄養価も高いが、繊維質が多く食味に落ちる。並粉と呼ばれるものはこれらの粉のブレンドものである。さらにロールをかけて、4・5番粉と取る場合がある。この様な繊維質を多く含んだ粉をさなごと呼ぶが食味に落ちる。挽きぐるみとは、一般にロール製粉、石臼製粉を問わず、抜きを丸ごと製粉したものを指す。石臼製粉は一般にロール製粉よりしっとりしており、風味に富んでいる。しかし製粉に手間や時間がかかる。

 この他に更級粉という種類がある、一番粉と似ているため一番粉を用いて更級と称する店も多いが、本来は製法が異なる。割れのない完全な抜きを選び、これを臼にかけて軽く挽き割る。これを篩いによって子葉やへたなどの部分を取り除き、さらに五つぐらいに綺麗に割れた上割れのみを取り分ける。これをほとんど目のないロールで軽く挽き割って得られたものが更級粉である。歩留まりはわずか一割程度。手間もかかり、少量しか取れないため値段が高い。これは高純度のそばでんぷん粉で、香りはほとんどない。

 また花粉と呼ばれるものは、打ち粉に使われる粉で、白粉ともよばれている。抜き、あるいは玄蕎麦を挽き割った時に粉になってしまう、実の中心部に近い粗めの白い粉である。これも一番粉を代用して打ち粉に使う向きがある。

 田舎蕎麦と呼ばれるものは、並粉あるいは挽きぐるみ等を用いた、黒っぽく、香り高い力のある蕎麦であり、江戸蕎麦とは更級、あるいは一・二番粉を用いた、白っぽく、滑らかで弾力性のある蕎麦である。山形、福島といえば勿論、田舎蕎麦のメッカといえる。


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